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HN:沙織(父)
高次脳機能障害 運転希望者に病院協力
教習所と連携、適否探る(2010年2月23日 読売新聞)
「運転9か条」を手に、患者と話す酒井さん(岡山県玉野市の患者宅で)
脳の損傷により、時には日常活動に支障が出る「高次脳機能障害」。退院後の生活再建に必要な
自動車の運転を控えなければならない患者も多い。患者支援を目指し、病院や自動車教習所などが
連携し、運転の適否を探る取り組みが進んでいる。
注意事項9か条
岡山県玉野市で会社を経営する田中浩一さん(仮名)(60)宅の、食卓に張ってあった
「運転9か条」が今年初め、2年ぶりに外された。
田中さんは2007年、脳こうそくで倒れ、「高次脳機能障害」と診断された。9か条を
作成したのは、入院先の岡山旭東病院(岡山市)でリハビリを担当した作業療法士、
酒井英顕さん(29)。退院後、「再びハンドルを握りたい」と、自動車教習所や県の
運転免許センターに通い、運転適性検査や実技指導を受ける田中さんに同行。
そこで受けた助言などを参考に、子供が通る道はスピードを控える、自分中心の運転をしない
など、田中さんの症状に合わせて注意事項をまとめた。
家族が同乗しながら、少しずつ運転の機会を増やしてきたが、一人で運転しても大丈夫
かなと、家族が思えるようになってきたため、9か条からの卒業にこぎつけた。田中さん
は、「運転には自信があったが、適性検査の結果や教習所の指導で、より注意が必要だと
感じた。運転ができない生活は考えられなかったし、仕事をすることがリハビリにもなる」
と振り返る。
不安抱える患者
岡山旭東病院では、入院患者のうち7割が自宅復帰し、そのうち8割が再び運転するこ
とを考えている。野間博光リハビリテーション課長は、「高次脳機能障害があっても、歩
けたり運動機能に問題がないと、周りからはなかなか病状を理解してもらえないことが多
い。特に復職と運転再開に力を入れている」と話す。11人いる作業療法士のうち3人を
運転担当にし、患者家族、運転免許センターとも連携する仕組みを作り、試行を続けてい
る。
酒井さんは「病気の後に運転できるかどうか、患者も家族も不安に思っている。運転を
再開するにしても断念するにしても、自分がどういう状況にあるかを客観的に調べてもら
った上で、最後は患者・家族が判断できるように情報提供するのが仕事です」と話す。
高次脳機能障害と診断されても、運転免許更新の際に明確な基準があるわけではないが、
県の自動車運転免許センターでは年20件前後、田中さんに類似した相談を受け付けてい
る。県警運転免許課の池田浩己主幹は、「運転適性検査の結果からだけでは適否は判断で
きない。まずは相談者らがどうしたいのかの判断をした上で、相談にきてほしい」と話し
ている。
血流センサー活用
運転機能を判定するため、昭和大学東病院(東京都品川区)では、患者の頭にセンサー
を付け、脳血流を測定する機械を使っている。医師や作業療法士らが、複数の検査結果を
踏まえた注意点などを助言する。
「運転と認知機能研究会」世話人代表で、昭和大の三村將・准教授(精神医学)は「病
気によって運転にどんな影響が出るか異なり、病院での検査はあくまで運転が大丈夫かど
うかの目安。安全性に問題のある患者は運転を再開する前に、自動車教習所などで実車で
評価をするのが望ましい」と話している。
◆運転と認知機能研究会(http://cogdrive.org/)
◆認知症高齢者の自動車運転については、国立長寿医療センターの荒井由美子部長が監
修した「家族介護者の支援マニュアル」(http://www.nils.go.jp/department/dgp/index-dgp-j.htm
)が参考になる。
高次脳機能障害
脳卒中などの病気や事故で、脳に損傷を受けた場合に起きる。うまく話せなかったり、
新しいことが覚えられなかったり、怒りっぽくやる気が出なかったりなどの症状が見られ
る。症状を自覚しにくい上、見た目ではわかりにくいため「見えない障害」とも言われる。
リハビリなどの支援が必要な患者は全国に約6万8000人おり、毎年約2800人が発
症するとの推計がある。
軽度外傷性脳損傷 “静かなる流行病”対策急げ
公明新聞:2010年2月23日
日本では“心の病”扱いも
画像診断で「異常なし」患者でも賠償受けられず
石橋徹医師の講演(要旨)から
“静かなる流行病”として世界的に重大な関心が寄せられている「軽度外傷性脳損傷(MTBI)」。日本国内にも多くの患者が潜在していると推定されるが、この病気は現在、国内でほとんど注目されていない。MTBIに詳しい「軽度外傷性脳損傷」(金原出版社刊)の著者、石橋徹医師(湖南病院=茨城県下妻市=院長)が17日、公明党の厚生労働部会でMTBIの現状と課題について講演した要旨を紹介する。
MTBIとは、脳で情報伝達を担う神経線維(軸索)が、交通事故、転倒、スポーツなどで頭部に衝撃を受けて損傷し発症する病気である。
症状は多彩である。高次脳機能障害を起こすと、記憶力、理解力、注意・集中力などが低下する。手足の動きや感覚が鈍くなる。また視野が狭くなる。においや味が分からなくなる。耳も聞こえにくくなる。排尿や排便にも支障をきたす。重症では車椅子、寝たきりの生活となる。これらの症状は、事故後すぐに現れないことがあり注意深い経過観察が必要となる。
大部分のMTBIは、3カ月から1年で回復する。しかし、1割前後は1年経っても症状が遷延し(長引き)、一生涯、後遺症に苦しむ。
MTBIは世界が関心を持つ“文明病”である。世界保健機関(WHO)は2007年、外傷性脳損傷(TBI)に関する勧告文の中で「外傷性脳損傷という静かな、そして無視されている流行病に対して、全世界で闘いを組織しよう」と呼び掛けている。WHOによれば、外傷性脳損傷(軽度のほか中等度、重度も含む)は世界で毎年1000万人が罹り、10万人当たりの発生頻度が150~300人という。その9割がMTBIである。WHOは、TBIが20年には世界第3位の疾患になると予測している。
米疾病対策センター(CDC)の03年のMTBIに関する連邦議会報告書によれば、米国では毎年150万人がTBIに罹り、5万人が死亡、8万から9万人が後遺障がい者となり、その累計数は米国人口の2%に当たる530万人に達するという。この数は米国のアルツハイマー病患者数に匹敵する。米国ではTBIは公衆衛生学上の重要課題として認識され、1996年に外傷性脳損傷法が制定された。
最近では、アフガニスタンやイラクの戦地から帰還した米兵の中に、爆風の衝撃などでMTBI患者が多発しているため、オバマ大統領はMTBIを軍医療上の重要課題と認めて対策強化策を打ち出した。
診断基準の浸透が必要
日本では「外傷性頚部症候群(鞭打ち症)」と診断された中にMTBIが多く見られるが、MTBIと気付かれることがない。全国20を超す都道府県から193人のMTBI患者が私のもとを訪れたが、日本にはMTBIの診断基準がなく、またWHOの基準が浸透していないため、全員、別の病気と「診断」されていた。世界には現在10万件を超えるMTBIの論文があり、容易にアクセス可能である。世界の動向に関心を向けていただきたい。
日本の医療現場では、CT、MRIなどの画像診断が重視される。ところが、MTBIでは軸索と共に近くを走る血管が損傷されて出血が起こらないと、通常のMRIでは脳病変が画像に出ない。出血巣も時間が経つと吸収される。だから、MTBIの軸索損傷が必ず画像に出ると考えるのは誤りである。
現在、MTBIの多くの患者が軸索損傷に由来する数々の臨床症状を認めながら、画像診断で「異常なし」とされて、MTBIという脳の病気が心の病にされている。そのために、自賠責や労災で脳の症状と事故との因果関係が認定されず、正当な賠償や補償を受けられずに困窮している。放置できない問題である。