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HN:沙織(父)
見えない脳外傷(5)画像偏重 見逃しの背景
Q&A:
軽度外傷性脳損傷について、患者会の顧問を務める湖南病院院長の石橋徹さんに聞きました。
――軽度外傷性脳損傷とは、どんな病気ですか
脳内では、様々な情報が軸索という神経線維を通って、やりとりされています。交通事故、転倒、スポーツなどで頭部に衝撃を受けて、この軸索が傷ついた状態と考えられます。
けがをした時の意識障害の程度により、軽度、中等度、重度に分類され、欧米では7~9割が軽度とされています。
軽度外傷性脳損傷の多くは3か月~1年で回復しますが、WHO(世界保健機関)の報告では、患者の約30%が様々な症状に苦しみ、CDC(米国疾病対策センター)の報告では、9%の患者が1年後も社会復帰できないと言います。
――症状は?
〈1〉記憶力や理解力が衰える〈2〉根気がなく、怒りっぽくなる〈3〉失神やけいれんを起こす〈4〉においや味を感じにくくなる〈5〉見えにくくなったり、聞こえにくくなったりする〈6〉手足がまひして、ひどい時はつえや車いすが必要になる〈7〉尿や便が漏れる――などです。
――課題は何ですか
軽度外傷性脳損傷は、脳の損傷が小さな軸索にとどまるため、脳内出血が起こらない限り、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)検査などで損傷を確認できません。このため、「問題はない」「心の病気ではないか」などと放置されがちです。
労災認定では、画像診断で異常があることが重視されます。このため仕事ができないほどの症状に悩んでいるのに認定されず、生活が困窮する患者もいます。
――診断基準はあるのですか
WHOが2004年に提唱した基準があります。〈1〉けがをした後の意識の混迷または見当識障害(季節や場所など自分の置かれている環境を理解できない)〈2〉30分以下の意識喪失〈3〉24時間以内に元に戻る健忘症――のうち、いずれか一つ以上に該当する場合。または、けがをして30分後か医療機関に搬送後の意識レベルが、「ほぼ軽度の意識障害」に該当する場合です。
日本には診断基準がありません。しかし、10年4月の参議院厚生労働委員会で、長妻厚労相が「持続する頭痛、記憶障害などの症状が表れる疾病であると承知している。診療ガイドラインや診断基準を作る必要がある」と発言しました。
――日本の医療に、何が足りないのでしょうか
WHOは07年、外傷性脳損傷を、「静かなる、そして隠れた流行病」だとして、関係機関に対策を勧告しました。ところが日本は、この病気に対する認識が低く、対応が遅れています。
検査データを重視し、患者を診ない画像偏重主義が、この病気を見逃す背景にあります。患者の苦しみと社会的損失は甚大で、対応が急がれます。(佐藤光展、坂上博)
(2010年8月5日 読売新聞)